地とは遠近 險易 廣狹 死生なり
橋本英訳
Earth, that is the terrain; whether it is far or close, steep or flat, wide or narrow, difficult or easy to retreat from.
地とは則ち地形のこと;遠いか近いか、険しいか平らであるか、広いか、狭いか、撤退をしにくい場所か、しやすい場所か。
孫子を読んでいると時々すごくわかりにくいところが出てくる。
例えば、この文章の「死生なり」というのもそれである。
「地とは遠近 險易 廣狹」までは分かりやすい。
しかし次の 「死生なり」が非常に分かりにくい。
いろいろ読んで調べると、「死地」と「生地」のこと。
死地とは戦闘が激烈で生還を期待できない場所。
生地とは生還が期待できそうな場所。
「死地」ということばは、「九地第10」に出てくる。
中国の大きな山の一つの常山に大きな蛇がいた。
何しろ尻尾にも頭があるのである。 二つ頭があるのである。
この蛇は「率然(そつぜん)」という名前があった。
率然が人に襲いかかると人は応戦するが、一方の頭と戦っていると不意にもう一つの頭に襲われるのである。
孫子は軍はそのようなコンビネーションで戦うべきだ、と言うのである。
ちなみにこれを「常山の蛇勢(じょうざん の だせい)」という。
ある人が孫子に尋ねた「そんなにうまくいきますか」と。
孫子は答えた。上手くいく、と。
呉と越の国の人は非常に仲が悪かった。
ある時、川を渡る船に彼らが乗り合わせたのである。
川の真ん中で嵐が来て時化にあった。
もうこの状態ではケンカなどしていられない。
互いに協力して操船して、無事に嵐を乗り切って岸に着いたという。
これを「呉越同舟(ごえつ どうしゅう)」という。
絶体絶命の「死地」に兵隊を放り込めば、兵隊は指揮官が命令しなくても懸命に戦うのだ、という。ここで「死地」という言葉が出てくる。
軍隊は仲良しクラブではない。
また、司令官と兵隊はお友達ではない。
時として、作戦上、「死地」に放り込まなければならない場合もあるのだ、ということ。
戦記物などを読んでいると、勇敢に戦うことは良いことだ、とか、指揮官は兵士と心を一つにして、みたいな美談がよく出てくる。
孫子にそれはない。
如何にして勝利を得るか。
勝利を得るには如何にして兵隊を勇敢に戦わせるか。
そのような怜利な発想で徹頭徹尾書かれている。
このようなことを踏まえて英訳した。
これはけっこう難しかった。つまり「死生」の英訳が難しかったのである。
原文になるべく忠実に訳し、自分の解釈を入れずに簡潔に英訳することを心がけているが life and death ではあまりにも素っ気ない。
ここは、「退却が難しいか、簡単か」というように英語訳をした。
つまり、difficult or easy to retreat from とした。
L. GILES 英訳
この漢文のトレーニングは是非やってほしいものです。
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